

Video & Sound
「Whisperscapes」
尺八、コンピュータと電子オブジェクトのための(2023)
この曲は、最近の認識できないほど変化した世界と、アイデンティティ、新しい意味、そして新たな「私」の探求についての音による考察である。音楽において、これは楽器がもはや自分自身に属さず、いかなる意味においても自分自身であることができないことを意味する。
“Whisperscapes”はアルゴリズム的作曲法と経験的作曲法のシナジー効果を探究する作者の創作の続きである。まず経験的方法で基となる素材を作った後、Max環境のBachライブラリを使用してそれを再現するためのアルゴリズムを制作した。
電子的なオブジェクトはArduinoで作り、その生成と応用は、作品全体に作用するシステムによって規制されている。
Sleeping Memory
インタラクティブオーディオビジュアル・インスタレーション
(2024)
本プロジェクトの中心となるのは、最近100年を迎えた盆栽の姿です。埼玉県の大宮盆栽美術館にあるこの盆栽は、3Dモデルとしてデジタル化され、「都市に蓄積された時の流れや変化を内に秘める記憶の番人」のような存在へと変貌を遂げました。植物はどのように情報を蓄えるのでしょうか? 人間とは異なる方法で世界を認識しているのでしょうか? 「Sleeping Memory」では、鑑賞者自身がそうした問いに対する答えを探るよう促されます。 本作は、スキャンによって得られた盆栽の3Dモデルに、インタラクティブなビジュアル要素とオーディオ要素を組み合わせたインスタレーションです。来場者の動きによって、盆栽のモデルは無数の微細な粒子へと分解され、同時に音のパレットがリアルタイムで生成されていきます。埼玉の街から採取されたフィールド録音(電車の走行音、セミの声、公園のざわめきなど)は、粒状合成により原形を留めない抽象的なサウンドへと変化し、鑑賞者の身振りに合わせて変容します。具体的には、右手でビジュアルの変容を操作し、左手で音の変調を行うことで、来場者自身が作品の生成プロセスに直接関与する仕組みです。 作品が提示する主要なテーマは、「記憶」を生き生きとした動的なプロセスとしてとらえることにあります。長い時を静かに過ごし、時代の移ろいを見つめ続けてきた盆栽は、職人の手によって形を整えられながら変化を重ねています。しかし、その職人もまた、日々盆栽と対峙することで変容しているのではないでしょうか。この相互作用の中で、人と盆栽は共に変化し合う存在となります。「Sleeping Memory」は、記憶がただの情報の蓄積ではなく、常に過去・現在・未来を再解釈しながら再編されるという考えを提起します。そして、もし私たちが盆栽の視点で世界を眺めるならば、時間や空間をまったく異なる感覚で捉え、流動する世界に潜む物語を新たに発見できるかもしれません。
「Noise of Memory」
プロジェクションマッピングとライブエレクトロニクス
のための」(2024)
写真家オリガ・チェリュカノワとのコラボレーションによるプロジェクトの一部。制作中。
「Sound Tree」
インタラクティブオーディオビジュアル・インスタレーション(2024)
Sound Treeは、ピアノの演奏に反応してリアルタイムで映像と音が生成されるインタラクティブな音響・視覚インスタレーションです。音の発生源はスクリーンの裏に配置され、鑑賞者には見えないままです。そのため、音の定位は聴覚に完全に依存します。しかし、プレセデンス効果などの空間的錯覚により、実際の音の発生源があいまいになることがよくあります。本作品は、知覚とコミュニケーションのニュアンスを探求し、音は錯覚に満ちており、注意深く耳を傾けることで「私は実際に何を聞いているのか?」と自問するよう促します。
2024年、東京の表参道Interactivitéで展示されました。
Touch My Mumblings, Hug My Words, Kiss My Singing
「Air and Whisperscapes」サウンドスケープ(2023)
キム・ソンが監督した展覧会『タッチ・マイ・マンブリングス、ハグ・マイ・ワーズ、キス・マイ・シンギング』のために制作されたサウンドスケープ。会場となった旧平櫛田中邸・アトリエ(東京)は、主催者によって「おばけ屋敷」として再解釈された。サウンドはすべて事前に録音された尺八の音からリアルタイムで生成され、尺八はまるで幽霊のように常にその場に存在しながらも、決してその本来の姿を現さない。
「Solar Wind」
ピアノとライブエレクトロニクスのための(2022)
「Solar Wind」は、太陽から吹き出す高温でイオン化したプラズマの粒子で、太陽系の惑星の間に存在する《太陽風》のことである。太陽風は宇宙の天気を変えたり、オーロラを作ったりなど様々な現象を生み出す。この作品では、惑星と太陽までの距離をピアノパートのリズムと音高にそれぞれ反映させている。ピアノの音は、惑星ごとに異なる旋法のような構造を持ったセリーの断片と音域が使用され、一方で準惑星は、セリーを持たないリズム部として区別される。惑星によって音同士の間隔が異なるため、太陽系の惑星の密度のメタファーが音楽で表現される。ライブエレクトロニクスのパートでは、リアルタイムでピアノの音のサンプリング、フィルタリング、スペクトル処理を行う。
「Communication」
インタラクティブオーディオビジュアル・インスタレーション
(2023)
この作品には4つのコミュニケーションレベルがある。
第1レベルはLEDとスピーカーが同じ電気パルスを受信する通信で始まる。徐々にパルスの周波数が高くなり、リズムから音色に変化していく。
第2レベルは人間の聴覚と視覚に依って、同じ信号でも解釈の仕方が異なる。
第3レベルのコミュニケーションでは、カリンバという楽器にスピーカーがついており、観客が演奏することで音を加えることができる。
第4レベルのコミュニケーションは、オブジェクトから発生するすべての音が電子的に処理される。また、暗闇に設置された鏡には、距離によって閃光が映ったり、鑑賞者の顔が映ったりする。
「瞬き」
ピアノとライブエレクトロニクスのための(2023)
この楽曲は、Max/MSPのbachライブラリを用い、簡単な数学計算に基づいて演奏者のための楽譜がリアルタイムで生成される作品である。さらに、ライブエレクトロニクスのパートも作曲と並行して常に更新され、発展している。つまり、演奏のたびに音楽が新たに創り出されるが、規則とアルゴリズムに基づいて演奏される。
「かき消された声」
ギターとライブエレクトロニクスのための(2022)
この作品は第二次世界大戦後、1945 年から 1956 年までソ連の労働収容所にいた日本人捕虜たちに捧げるものである。
「取扱説明書(機械は戦争を考えない)」
自動ピアノとライブエレクトロニクスのための(2022)
戦闘機が自宅にミサイル攻撃する瞬間を捉えた映像の音声(接近・爆発・子供の泣き声)をスペクトラム分析し、自動ピアノのパートとした。機械は戦争を考えない。だが機械の背後に人間がいることを忘れてはならない。
「深淵から光へ」
アンサンブルのための(2021)
I. カノン:最初の冬
II. フーガ:1945-1956
III. コラール:レクイエム/帰還
この作品は第二次世界大戦後、1945 年から 1956 年までソ連の労働収容所にいた日本人捕虜たちに捧げるものである。その多くは終戦間際に 召集され、実際の戦闘に 1 日も参加することなく抑留されている。60000 人ほどの日本人が収容所の過酷な環境に耐えられず、帰国すること ができなかったが、ほとんどが最初の厳冬を越えられなかった人々であった。
この曲は人間のコミュニケーションをコンセプトとしており、演奏者間でお互いの音を注意深く聴き合うことで成立する。3 つの部分で 3 つ の異なるコミュニケーションのあり方が描かれる。
「Jekyll and Hide II」
アルトサックスとライブエレクトロニクスのための(2021)
本曲では「偽のポリフォニー」という錯覚を利用しており、実際には1つの楽器のパートが知覚上2つのラインに分割される。この作品は、小説と同じように、ディストピア・スリラー(ホラー)のジャンルで、サックス・ソロとライブ・エレクトロニクスのために書かれている。ロバート・スティーブンソンの小説「ジキル博士とハイド氏の驚くべき物語」をベースに、殺人者と医者という全く異なる2人の人物が、同じ人間の2つの人格であることを描いている。
「brokENsemble」
ヴァイオリンソロ・ライヴエレクトロニクス・ホログラムのためのパフォーマンス(2021)
本作品のコンセプトは、仮想世界が次第に現実に取って代わる時の壊れたコミュニケーション(=dis-communication)である。 ヴァイオリンパートは、素材をモーフィングを通じて変位させていく。一つの素材の内部から別の素材が発芽し、徐々にそれ自 体に置き換わっていく。さらに同様にして第3、第4と合計5つのセクションでこのような変位が行われる。 また、ヴァイオリンパートには個々の素材とその展開とモーフィングのヴァリエーションのみが書かれており、パフォーマーは 楽譜上に指示された音や形式に従った即興演奏を行う。 エレクトロニクスパートはすべてヴァイオリニストによって演奏された音を基にしている。AI アルゴリズムが音の構造を分析し て様相を変化させ、元のヴァイオリンに加えて5人の仮想パフォーマーの即興演奏を作り出す。 このようにしてヴァーチャルなアンサンブルが結成され、現実のヴァイオリ二ストはエレクトロニクスの音の変化を聴きながら 反応して相互作用を生み出していく。AI は Max/MSP 内の“Omax”ライブラリで作成した。 ホログラムはパフォーマーの周りに動きの感覚を作り出し、部屋の空間を補完する。ホログラムの動きはリアルタイムの音によ って制御され、音のアクセント・テクスチャー・密度・強弱を視覚化する。
「X-SynapseL」
アルトリコーダーとライヴエレクトロニクスのための(2020)
神経生理学では、人の記憶というものは固定した記憶の保存ではなく、ニューロンのテクストは常時更新されるとされている。それだけではなく、いずれかの記憶に回帰するたびに脳がそのメモリを上書きする。そのため、記憶にアプローチするたびに、その記憶は既に変更された新たなヴァリエーションを内包している。思い出す頻度が高い記憶ほど、記憶のテクストは干渉され逸脱していく。このプロセスは極端な場合、もとの情報から完全に変形していく。 では、記憶が唯一残された過去の痕跡である場合はどうであろうか。思い出や故人を思い出すたびにその記憶は変形され幻像にとって変わられ、現実からかけ離れていってしまうのだろうか。本作品では、これは基となるリコーダーの音の絶え間ない変移に反映されている。リズム型、アクセント、長い音は新しいハイブリッドな形式の中で繰り返され、混ざり合い、流れ移っていく。エレクトロニクスパートはアルトリコーダーのパートと相互に影響を与え合う関係を基礎にしており、接触の可能性と途切れることのない変化を呼び起こす音楽の要素間でのシナプスの繋がりのようなものを現実化する存在である。 本作品は、喪失をテーマとしている。何かとても大事なことを思い出そうとするたびに、シナプスの繋がりは変化し記憶は何度も書き換えられて、もとの記憶のバージョンに戻ることなく徐々にオリジナルから遠ざかっていくのである。